北海道植物文献備忘録①
宮部金吾著「The Flora of the Kurile Islands(1890年刊行)」は,"Miyabe, Fl. Kuril. (1890)"のような形で北海道や千島列島のシノニムリストやフロラ文献にしばしば登場する。千島列島の植物相を体系的にまとめた最初期の文献で,ハーバード大学に留学して博士号を取得した宮部の学位論文でもある(宮部金吾博士記念出版刊行会 1953, 高橋 2005, 高橋 2015)。
このタイトルで検索しても,2022年6月現在PDFにはたどり着けない(はず)。また北大図書館で蔵書検索すると,本館の札幌農学校文庫に保管されている貴重資料がヒットする。というわけで,この閲覧するためには本館まで出向かないといけない。また禁帯出なので,チェックしたいことを事前に調べておく必要があったり,とりあえず借りて後で読む,というようなことができない。不便である。
しかし実はこの文献は,Memoirs read before the Boston Society of Natural History(ボストン自然史学会の紀要)の4巻203~275ページに掲載された論文の抜き刷りである。ちゃんと引用するのであれば,"Miyabe K. 1890. The flora of the Kurile Islands. Mem. read Boston Soc. Nat. Hist. 4: 203-275."などとなる。当たり前だが,高橋(2005, 2015)などでは普通に引用されている。
さて,雑誌のタイトルで検索すると,4巻のこの論文を含め,The Biodiversity Heritage Library で公開されている。つまり,実はオープンアクセスであった。
恥ずかしながら,この文献が雑誌の抜き刷りであること,オープンアクセスだったことは本館で貴重資料を閲覧するまで全く気づかなかった。表紙を開いたところ,裏側に"Ex. from Memoirs Boston Soc. Nat. Hist., Vol. IV no. 7 (1890) pp. 203-275"と直筆で書き込みがあったので気づくことができた。頻繁に見る筆跡だと思うが,筆記体でなくブロック体だったのでどなたのものかはわからなかった。万年筆の太さ的に舘脇先生あたりだろうか。
念のため断っておくが,もちろん貴重資料に価値がないと言っているわけではない。宮部先生直筆の書き込みもあり(これはわかる),触るのも億劫になるくらいである。普段同時期に採集された標本は何のためらいもなく触っているのに,不思議である。
引用文献
宮部金吾博士記念出版刊行会. 1953. 宮部金吾. 岩波書店, 東京.
高橋英樹. 2005. 北方系植物の移動経路一サハリン/千島ルート. 分類 5(2): 89-97.
高橋英樹. 2015. 千島列島の植物. 北海道大学出版会, 札幌.
※備忘録が②に続くかは不明。
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